福井地方裁判所 昭和30年(行モ)1号 決定 1955年1月14日
申請人 鯖江町・中河村・豊村
被申請人 福井県知事
決 定
右当事者間の昭和三〇年(行モ)第一号行政処分執行停止命令申請事件について、申請代理人等は、
被申請人は、申請人等並に福井県今立郡神明町及び片上村並に福井県丹生郡立待村及び吉川村の申請に基き、福井県議会の議決を経、且つ予め内閣総理大臣と協議した上、昭和二九年一一月二日、昭和三〇年一月一五日から申請人等各町村並に右神明町、右片上村、右立待村及び右吉川村を廃し、その区域をもつて鯖江市を設置する旨の決定をなし、内閣総理大臣にその旨を届け出で、同大臣は昭和二九年一二月二三日その告示をなした。しかし、被申請人の右決定をなした処分は、次の理由によりかしがある。すなわち、新たに鯖江市となるべき普通地方公共団体の中心の市街地を形成している区域内に在る戸数は、四、〇二八戸に過ぎず、これは、右普通地方公共団体の全戸数七、七五五戸に対し五一、九四パアセントの割合をしめるに過ぎないから、右普通地方公共団体は、地方自治法第八条第一項第二号に規定する市となるべき要件を具えていない。亦、右普通地方公共団体の住民で商工業その他の都市的業態に従事する者及びその者と同一世帯に属する者の数は、一九、五二三人に過ぎず、これは、右普通地方公共団体の全人口三七、七五五人に対し五一、七〇パアセントの割合をしめるに過ぎないから、右普通地方公共団体は、地方自治法第八条第一項第三号に規定する市となるべき要件を具えていない。
したがつて、これらの事実を無視してなされた被申請人の右処分にはかしがある。そして、右かしは、重要な法規違反を原因とし、且つそのかしの存在が外観上明白であるから右処分は無効である。そこで、申請人等は、被申請人のなした右処分の無効確認を求めるため福井地方裁判所に訴を提起しているが、右処分を現状のまゝ放置するときは、申請人等各町村は、数日を出でずして廃されてしまう結果となり、償うことのできない損害を蒙るので、右判決が確定するまで、その処分の執行の停止を命ぜられむことを求める。
旨申立てた。
当裁判所は、右申立を理由あるものと認め、行政事件訴訟特例法第一〇条に基き主文のとおり決定する。
主文
被申請人は、昭和二九年一一月二日、昭和三〇年一月一五日から申請人等各町村並に福井県今立郡神明町及び片上村並に福井県丹生郡立待村及び吉川村を廃し、その区域をもつて鯖江市を設置する旨決定した処分の執行を停止せよ。
(裁判官 吉田彰 布谷憲治 海老塚和衛)
決定
主文
当裁判所が昭和三十年一月十四日にした別紙第一目録記載の趣旨の決定を取り消す。
理由
当裁判所は、昭和三十年一月十四日に別紙第一目録記載の趣旨の決定をした。
ところが、その後に至つて、内閣総理大臣は、同日午後十時過ころ、別紙第二目録記載の事由を理由とする電送写真による異議陳述書を提出した。
それで当裁判所は、行政事件訴訟特例法第十条第二項但書の趣旨を参しやくし、かつ諸般の事情を考慮して、前記決定を取り消すのが相当であると認め、同条第六項を適用して主文のとおり決定をする。
(裁判官 吉田彰 布谷憲治 海老塚和衛)
別紙 第一目録
被申請人は、昭和二九年一一月二日、昭和三〇年一月一五日から申請人等各町村並に福井県今立郡神明町及び片上村並に福井県丹生郡立待村及び吉川村を廃し、その区域をもつて鯖江市を設置する旨決定した処分の執行を停止せよ。
別紙 第二目録
福井県今立郡鯖江町、神明町、中河村及び片上村並びに丹生郡豊村、吉川村及び立待村を廃し、その区域をもつて鯖江市を設置する福井県知事の処分は、原告を含む関係町村の申請に基き、地方自治法の規定に従い、成規の手続により処分を了して官報に告示され、行政上の処置を完結しすでにその効果が確定しているものであり、一部の異議のみによつて右処分の執行を停止することは、成規に成立した行政秩序を害い、行政の安定上甚だしい混乱を来すのみでなく、町村合併促進法の定めるところにより、国の基本的施策として、町村の規模を適正化するために全国にわたつて推進中の町村合併の遂行に与える影響にも測り知れないものがあり、公共の福祉に重大な影響を及ぼすものであつて、到底容認し難いところである。
なお、本処分によつて償うことのできない損害が具体的に発生するものとは認め難い。